政策
AI推進法は罰則なしで、使う側にも努力義務を課している
2025年9月1日に全面施行されたAI推進法(令和7年法律第53号)には罰則がありません。ただし第7条は、AIを開発する側だけでなく利用する側にも努力義務を置いています。
AI推進法について最初に確認しておくべきことは、罰則がないという点です。
令和7年法律第53号、正式名称は人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律。2025年6月4日公布、2025年9月1日に全面施行されました。EUのAI法とは性格が違い、規制ではなく推進を目的とした法律です。
罰則がないので、違反という概念がありません。この時点で関心を失う会社が多いのですが、実務上は少し違う読み方をしたほうがいいと考えています。
第7条が誰にかかっているか
注目すべきは第7条です。ここでは、AIを開発・提供する事業者だけでなく、AIを利用する事業者にも努力義務が置かれています。
つまり、自社でモデルを作っていなくても、業務でAIを使っている時点で対象に含まれます。日本企業の86.4%が生成AIを使っている現状を踏まえると、ほぼすべての会社が該当します。
努力義務なので、達成しなくても罰は受けません。ただ、努力義務は次の2つの場面で意味を持ちます。
1つ目は、事故が起きたときです。 AIの出力が原因で損害が生じた場合、その企業が適切な体制を取っていたかどうかが問われます。法律上の努力義務が存在している状態で、何もしていなかったという事実は、説明の難易度を上げます。
2つ目は、取引先からの確認です。 大企業が調達要件にAIの利用体制を含め始めています。法律を根拠に聞かれたときに、答えを持っていない状態は不利です。
AI事業者ガイドラインとの関係
2026年3月に更新されたAI事業者ガイドライン1.2では、AIエージェントに関する記述が整理され、ヒューマン・イン・ザ・ループの考え方が明確化されました。
エージェントというのは、AIが複数の手順を自分で実行する形態です。人が都度確認しない設計になるため、どこで人が介在するかを事前に決めておく必要があります。
ガイドラインは法律ではありませんが、体制を作るときの参照先としては実用的です。
実務として何をしておくか
罰則がない法律に対して過剰に構える必要はありません。ただ、次の4つは、法律とは関係なく持っておいたほうがよい種類のものです。
- 利用しているAIサービスの一覧。 どの部署が何を使っているかを把握していない会社が多くあります。棚卸しだけで一日かかりません。
- 入力してよい情報の基準。 個人情報、顧客情報、未公開情報。どれを入れてよいかを一枚にまとめる。
- 出力を人が確認する箇所の定義。 どの業務で、誰が、何を見るか。エージェントを使う場合は特に重要です。
- 問題が起きたときの連絡経路。 誰に報告し、誰が止める判断をするか。
この4つは、努力義務への対応であると同時に、そのまま業務設計の骨格でもあります。
規制ではなく前提として読む
AI推進法は、日本がAIを規制する国ではなく推進する国であることを示した法律です。企業にとっては、制約が増えたのではなく、使う前提が公式になったと読むほうが実態に近いと思います。
前提になったということは、使っていないことのほうが説明を求められる側になる、ということでもあります。