業務設計
社内システムの使いにくさは、教育で解決しない
社外向けの製品には改善の予算がつき、社内システムにはつきません。しかし、使いにくい社内システムのコストは、全社員の時間として毎日発生しています。
社外向けのプロダクトに使いにくい画面があれば、離脱率として数字に出ます。数字に出るので、改善の予算がつきます。
社内システムに使いにくい画面があっても、離脱は起きません。社員は使うしかないからです。数字に出ないので、予算はつきません。
この非対称が、多くの会社で長く放置されています。
コストは消えていない
離脱しないだけで、コストは発生しています。
経費精算に10分かかるシステムを300人が月1回使うと、月に50時間です。年間600時間。人件費に換算すれば、それなりの金額になります。
しかも、この時間はどの部門の予算にも計上されません。全部門に薄く分散して、誰の課題にもならない形で消えます。
日本の時間あたり労働生産性は60.10ドルで、OECD38カ国中28位です。この順位を作っている要素のひとつが、こうした計上されない時間だと考えています。
教育で埋めようとすると失敗する
使いにくいシステムに対して、多くの組織はマニュアルと研修で対応します。
この対応には構造的な問題があります。マニュアルが必要だということは、画面が説明を必要としているということです。説明が必要な画面は、説明を読まない人が必ず一定数いる以上、間違いが発生し続けます。
そして間違いが発生すると、確認と手戻りの工程が追加されます。追加された工程は、また誰かの時間を使います。
研修の費用と、マニュアルの保守と、間違いの手戻りを合計すると、画面を直す費用を超えていることがあります。ただ、この3つは別々の予算に入っているので、合計されません。
直す対象の見つけ方
全部を直す必要はありません。効果の大きい箇所を特定する方法があります。
- 問い合わせの多い操作を数える。 情報システム部門への問い合わせは、そのまま使いにくさの一覧です。上位5件で、大半の時間を説明できることが多いはずです。
- 入力のやり直しが発生する箇所を探す。 エラーで戻される画面、入力後に不備が発覚する申請。ここは確実に時間を消費しています。
- マニュアルが厚い箇所を見る。 手順書のページ数は、そのまま画面の複雑さの指標です。
- 承認の待ち時間を測る。 承認者が何を確認すればよいか分からない設計だと、承認は滞留します。滞留は、画面の問題であることが多いです。
直し方は小さくてよい
社内システムの改善は、全面刷新である必要がありません。多くの場合、次の程度で効きます。
- 必須項目と任意項目を視覚的に分ける
- エラーを送信後ではなく入力中に出す
- 入力済みの情報を次の画面に引き継ぐ
- 選択肢を、使用頻度順に並べ替える
- 前回の入力値を初期値にする
どれも大きな開発ではありません。そして、どれも毎日発生している時間を削ります。
DXの入口として
IPAのDX動向2025で、日本企業に最も不足している役割はビジネスアーキテクトでした。業務と技術の間を設計する役割です。
社内システムの改善は、この役割を育てる場として適しています。利用者が社内にいるので、観察と検証が容易です。失敗しても社外に影響しません。そして、効果が時間として測れます。
外向けの新規プロダクトから始めるより、確実に学習が進みます。社内システムを軽視している会社は、この学習機会も同時に手放しています。