人材
生産性が年3.54%伸びれば、IT人材不足は解消する
経済産業省の試算では、2030年のIT人材不足は最大で79万人です。同じ報告書に、労働生産性が年3.54%で伸びれば需給が均衡するという一行があります。前提の伸び率は0.7%です。
IT人材不足の議論では、2030年に最大79万人が不足するという数字がよく引用されます。経済産業省が2019年4月に公表した調査の数字です。
供給は2030年に113万人。需要との差は、中位シナリオで45万人、高位シナリオで79万人。
この数字は広く引用されています。一方で、同じ報告書の3ページにある別の一行は、ほとんど引用されません。
労働生産性が年3.54%で伸びれば、供給と需要は均衡する。
3.54%が何を意味するか
この試算のベースラインは年0.7%です。つまり3.54%は、想定される伸びの5倍ということになります。
5倍と聞くと非現実的に聞こえます。ただ、これは全産業の平均を5倍にするという話ではありません。IT人材の生産性の話です。
そして、この報告書が書かれたのは2019年です。生成AIが実務に入る前です。
現在の数字と重ねる
令和8年版情報通信白書によれば、生成AIをコード生成に使っている日本企業は7.0%です。米国は35.4%。
IPAのDX動向2025では、DX人材の質が確保できていると答えた企業は日本で3.8%、米国で52.9%。8割以上が不足を訴える一方、19.4%は採用活動を行っていません。
この3つを並べると、状況が整理できます。人は足りない。採用もしていない。一人あたりの出力を上げる手段は7.0%しか使っていない。
3.54%という数字が重要なのは、人材不足が採用でしか解決しない問題ではないと、経済産業省の試算自体が示しているからです。
現実的な読み方
3.54%を全社で達成する計画を立てる、という話ではありません。この数字の使い方は、社内の議論の枠組みを変えることにあります。
人材不足の議論は、たいてい採用の話になります。採用の話になると、予算と市場の話になり、多くの場合そこで止まります。前の記事で見たとおり、要件が書けないので採用が進まないという構造もあります。
生産性の話にすると、議論の対象が社内に戻ります。社内なら、決められます。
具体的には、次のような問いになります。
- 今のチームが、作らなくていいものを作っている時間はどれくらいか
- 承認と手戻りで待っている時間はどれくらいか
- 定型的な実装に使っている時間のうち、自動化できる割合はどれくらいか
この3つは測れます。そして、この3つの合計が想定より大きいことは珍しくありません。
79万人という数字は採用の議論を呼びます。3.54%という数字は設計の議論を呼びます。後者のほうが、自社で動かせる範囲が広いはずです。
数字の限界
この試算は2019年のものです。前提となる技術環境は変わっていますし、需要側の想定も当時のものです。そのまま現在に当てはめることはできません。
それでも、この一行に価値があると考えるのは、人材不足という問題が生産性の問題として定式化されている点です。同じ問題を別の変数で解く道があると、政府の試算が示しています。
そして生産性を上げる工程は、採用と違って、外部の市場に依存しません。