DX
レガシーシステムはDXの最大の障害ではない
IPAの調査では、日本・米国・ドイツのいずれでも、レガシーが大きな障害だと答えた企業は2割未満です。刷新の取り組みも頭打ちになっています。止めているのは別のものです。
DXが進まない理由として、レガシーシステムが挙げられることがあります。長く使われてきた説明です。
IPAのDX動向2025を読むと、この説明は現状に合っていません。
日本、米国、ドイツのいずれの国でも、レガシーが大きな障害だと答えた企業は2割未満です。また、レガシー刷新の取り組みは頭打ちになっています。
2割未満という数字の意味
障害だと答えた企業が2割未満だということは、8割以上の企業にとって、レガシーは主要な制約ではないということです。
レガシーはもちろん存在しています。ただ、DXが止まっている理由の中心にはない、ということです。
刷新の取り組みが頭打ちになっているのも、同じ方向を示しています。取り組みが増えていないのは、優先順位が下がったからだと考えるのが自然です。
実際に止めているもの
同じIPAの調査に、より説明力のある数字があります。
DX人材の質が確保できていると答えた企業は日本で3.8%、米国で52.9%、ドイツで25.1%。そして日本で最も不足している役割はビジネスアーキテクトでした。米国とドイツではデータサイエンティストです。
ビジネスアーキテクトは、何を作るかを決め、既存の業務のどこに入れるかを設計する役割です。
これを、令和8年版情報通信白書の数字と重ねます。生成AIを使っている日本企業は86.4%。組織的な取組がないと答えた企業は27.0%。業務プロセスをAI中心に変えた企業は6.0%から11.9%。
技術は入っている。決める人がいない。
レガシーの話になりやすい理由
レガシーが原因だという説明には、使いやすさがあります。
まず、responsibility が個人に向きません。システムが古いという事実は、誰かの判断の失敗ではないからです。
次に、解決策が明確に見えます。刷新すればよい。予算と期間が見積もれます。
そして、実行しても構造は変わりません。同じ業務プロセスを新しい技術で動かすだけなら、誰の役割も変わりません。
一方、ビジネスアーキテクトが不足しているという説明は、扱いにくい。誰が決めるのかという問いが発生し、既存の役割分担に触れることになります。
確認できる問い
自社で、レガシーが本当に制約かどうかを確認する方法があります。
もし今、システムが全部新しくなったとして、何が変わるか。 具体的に書き出してみる。業務の手順が変わらないなら、制約はシステムではありません。
止まっている案件を3つ挙げて、止まっている理由を書く。 技術的に不可能なのか、決まっていないのか。多くの場合、後者です。
直近で中止した施策の理由を確認する。 技術的な理由で中止されたものが何割あるか。
この3つで、制約の所在はだいたい特定できます。
レガシーは実在します。ただ、2割未満の企業しか主要な障害だと考えていないものを、全社的な優先課題として扱う理由は薄いはずです。
順番の問題
刷新そのものを否定しているわけではありません。老朽化したシステムには、コストとリスクの問題があります。
ただ、業務プロセスを決め直さないまま刷新すると、新しいシステムの上で同じ業務が動くだけになります。数年後に、同じ議論が同じ言葉で繰り返されます。
決めるのが先で、作り替えるのが後です。IPAの数字が示しているのは、日本企業に不足しているのが後者ではなく前者だということです。